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オリジナル・サウンドトラック

ポップ / ポップ・ソングの基礎 · 1975

オリジナル・サウンドトラック

10cc

The Original Soundtrack · 10cc

この一枚を聴く理由

声が登場人物にも背景にもなる一枚。「パリの一夜」から「アイム・ノット・イン・ラヴ」への空間の変化が入口です。

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収録曲・試聴

日本語編集版

アルバムの物語

「アイム・ノット・イン・ラヴ」の柔らかな響きを求めて再生すると、冒頭の「パリの一夜」に驚くかもしれません。そこでは歌い手が次々と入れ替わり、ピアノと合唱が舞台を慌ただしく動かします。ところが二曲目に進むと、時間が引き延ばされたような広い空間が現れます。本作は一つの気分を保つアルバムではありません。曲順と編曲によって聴き手の居場所を変えていく作品として入ると、親しみやすいメロディの奥にある仕掛けが見えてきます。

1975年発表の三作目。バンド公式サイトの回想では、フォノグラム移籍後の最初のアルバムに当たります。題名は実在の映画の音楽集という意味ではなく、歌から頭の中に映像が生まれるという発想に結び付いています。ここで案内するApple版は音源の権利表記が1996年の全十曲版です。元の八曲は「我が愛のフィルム」で終わり、その後に「Channel Swimmer」と「Good News」が加わります。初めてなら八曲目で一度区切ると、作品本来の閉じ方を捉えやすくなります。

声を楽器として聴き直す

エリック・スチュワート、グレアム・グールドマン、ケヴィン・ゴドレイ、ロル・クレームの声は、単にハーモニーを厚くするためだけに使われていません。冒頭では人物の違いを示し、続く曲では歌い手を包む背景になります。後年のスチュワートの証言によると、その背景には声を録音したテープのループが用いられました。まず耳を向けたいのは機材の珍しさより、前にいる一人と後ろに広がる音との距離です。同じ声という素材から、会話と空間の両方が作られています。

明るさをそのまま信じない

「ゆすり」の引き締まった動きや「人生は野菜スープ」の軽やかなリフレインは、長い導入部のあとに分かりやすい足場を用意します。一方で、曲調の楽しさと語られる内容は必ずしも一致しません。歌の人物が何を言うかと、どんな表情で歌われるかを分けて聴いてみてください。終曲の大きく身振りを付けたロマンティックな響きにも、それまでの場面を通過した耳には、甘さだけでは説明できない距離が残ります。

評価のねじれも手掛かりに

1975年3月1日付NMEのチャールズ・シャー・マレー評は、制作技術を称賛する一方で作品への強い嫌悪も示しました。当時の評判を一様な絶賛として扱うことはできません。現在の公式紹介が最初の二曲を特に挙げているのは、当事者による後年の回想です。その二つを区別すると、本作の魅力も単なる技巧自慢から離れます。気持ちよく聴ける音楽が、同時に感情を舞台の上から眺めさせる。その近さと遠さを行き来できることが、聴き返す理由になります。

曲からたどるアルバム

冒頭二曲の声の距離を比べ、次に元の八曲を通して聴いてみてください。追加二曲は本編の結末を確かめたあとで。

  1. Une Nuit a Paris, Pt. 1 / The Same Night In Paris, Pt. 2 / Later the Same Night In Paris, Pt. 3

    まずピアノの動きを道案内にすると、長い曲の入口がつかめます。一人の歌手による告白として聴くより、声が変わるたびに別の人物へ照明が移る小さな劇を想像してみてください。細かく動く伴奏と、声がまとまって押し出す合唱とでは、場面の大きさも変わります。三部を並べた長い曲名は、その移動を示す地図です。誇張されたフランス風の発音は現地の暮らしの記録ではなく、舞台上の戯画として受け取るのが適切でしょう。すべての言葉を理解しなくても、独唱と集団の交代で場面の密度を追えます。次の曲に入ったとき、このせわしなさを思い出すと、静かな背景へ切り替わる効果がよりはっきりします。

    参考資料 · Universal Music Japan: eight-track programme, UIGY-9611
  2. I'm Not In Love

    手前の歌声と、後ろで長く続く音を分けて聴いてみましょう。後者は歌詞に返答するコーラスというより、和音を保ちながら周囲を包む層として働きます。声のテープ・ループを使ったというスチュワートの証言は、その音色を知る手掛かりです。ただし作り方を知らなくても、愛を否定する題名と、思いを手放せないような歌い方のずれは伝わります。途中のささやきでは、近い話し声と広い背景の距離を比べてください。試聴で質感を確かめたあと、全曲ではその空間がゆっくり保たれる時間に耳を澄ませると、編曲そのものが感情を担っていることが分かります。

    参考資料 · Bill DeMain, M Music & Musicians issue 39: Eric Stewart recalls the recording

次に聴く一枚

ランディ・ニューマンの『Sail Away』へ。美しいメロディと語り手の言葉が一致しないとき、聴き手との距離をどう作るかを比較できます。

Sail Away ↗
参考資料と編集について

日本語の読者に向けて独立して編集した記事です。作品の事実関係は下記の資料を参照し、聴きどころは編集上の解釈として記しています。AIによる編集・検査を実施しており、第三者の読者による実査ではありません。