
ヒップホップ / 黄金期のニューヨーク · 1988
It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back
パブリック・エナミー
It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back · Public Enemy
この一枚を聴く理由
低く強い声と、引き下がらない伴奏。そのせめぎ合いを追うだけでも、言葉の背景を調べる前に耳がつかまれる一枚です。
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収録曲・試聴
日本語編集版
アルバムの物語
「Rebel Without a Pause」を聴くと、ラップの後ろにあるはずの音が、いつまでも前へ出てくる。鋭い反復音とチャックDの低い声が同時に耳を引くのだ。まずは言葉を全部理解しようとせず、声だけ、その次は伴奏だけを追ってみたい。同じ部分でも緊張の感じ方が変わる。パブリック・エナミーのこのアルバムには、名盤という評価を先に覚えるより、音のぶつかり方から入る道がある。
1988年発表のセカンド・アルバム。本ページでは追加音源を含むデラックス盤ではなく、16曲の本編を扱う。短い導入やつなぎも曲順の一部なので、すべてが同じ長さのラップ曲だと思わなくてよい。「Bring the Noise」の密度、「Cold Lampin’ with Flavor」で変わる声の表情、後半の長い語り。順に聴くと、強い主張を同じ調子で押し通すだけの作品ではないと分かってくる。
声の役割が変わると距離も変わる
チャックDがまとまった言葉を前へ進める一方、フレイヴァー・フレイヴの声は割り込みや応答として違う表情を持ち込む。大勢への呼びかけを聞いているところへ、すぐ隣から反応が返るような距離の変化だ。制作陣ボム・スクワッドの伴奏にも耳を分けてみよう。既存の録音の一部を使って新しい音楽を組むサンプリングは、元の曲を当てるクイズにしなくても楽しめる。繰り返す音と、途中で入ってくる音の役割を聴き分ければよい。
当時の評価にも賛否があった
1988年7月のVillage Voiceで、グレッグ・テイトは音楽的な達成を評価すると同時に、グループの差別的な言説を批判した。発表時から無条件の称賛だけがあったわけではない。黒人の立場を強く打ち出した作品という背景を知ることと、その周囲の主張を批判的に読むことは両立する。後年の名盤という位置づけで当時の議論を消さずに接したい。音にひかれることを、すべての発言への同意と考える必要もない。
一つの音を覚えてから曲順に戻る
入口には「Don’t Believe the Hype」と「Rebel Without a Pause」を並べてみるのがおすすめだ。一度に歌詞、歴史、音の出典を追わず、覚えやすい反復を一つ見つける。その後で声が入る瞬間や途切れる場所に注目すると、伴奏との関係がつかみやすい。全体に戻ったら短い曲も飛ばさず、次を待つ感覚の変化を確かめたい。複雑さを解読する課題にするより、もう一度聞きたい細部を足場にする。そのほうが、最初は騒がしく感じた音にも役割が見えてくる。
曲からたどるアルバム
Don’t Believe the Hypeの戻ってくるフレーズと、Rebel Without a Pauseの鋭い反復を聴き比べたい。試聴は抜粋なので、全体の展開はリンク先のサービスで確認できる。
Don't Believe the Hype
短く戻ってくるフレーズが、長いラップを追い切れない耳にも目印をくれる。まずはそのリズムを覚え、間に入るチャックDの文がどこまで伸びるかを聴いてみたい。ハンク・ショックリーは2018年のKEXPで、DMCがアポロ劇場の外でデモを流した際の好反応が、完成への後押しになったと回想した。これは後年の当事者の証言であり、観客全体の意見を集計した記録ではない。それでも、作り手の手応えと外で聴く人の反応が違った例として興味深い。主張を運ぶ言葉が、同時に覚えやすい音の形にもなっている。意味を調べる前に参加できる場所が、その反復の中にある。
参考資料 · KEXP: Hank Shocklee interview, 21 June 2018 (retrospective testimony)Rebel Without a Pause
鋭い反復音が声の後ろへ引っ込まず、二つが並んで前へ出てくる。ハンク・ショックリーは2018年の回想で、サックスの攻撃性とチャックDの声の伝わりやすさを両立させる難しさを説明した。その話を入口に、一度は声を、次は高い音を追ってみよう。音量を上げなくても、同じ拍の感じ方が変わるはずだ。伴奏が歌い手を支えるだけではないことが、分かりやすく表れている。元のレコードをすべて知っている必要はない。どちらも自分の場所を譲らないような緊張を感じることから、この曲の面白さに近づける。言葉と制作の関係が耳に残る一曲だ。
参考資料 · KEXP: Hank Shocklee interview, 21 June 2018 (retrospective testimony)
次に聴く一枚
次はNasのIllmaticへ。集団へ呼びかける声から、街の場面を近くで描く語りへ移り、ビートと話し手の距離を聴き比べたい。
Illmatic ↗参考資料と編集について
日本語の読者に向けて独立して編集した記事です。作品の事実関係は下記の資料を参照し、聴きどころは編集上の解釈として記しています。AIによる編集・検査を実施しており、第三者の読者による実査ではありません。
- Public Enemy: official discography, original and deluxe editions · www.publicenemy.com
- Greg Tate: contemporary review, originally published 19 July 1988 · www.villagevoice.com
- KEXP: Hank Shocklee interview, 21 June 2018 (retrospective testimony) · www.kexp.org
- Apple Music: original 16-track programme and retrospective editorial · music.apple.com
- Tape Op: Hank Shocklee interviewed by Philip Stevenson, 2005 · tapeop.com